Column / AI業務効率化
療育の現場で、AIに任せていい仕事・任せてはいけない仕事
工程ではなく、仕事の性質で線を引く
「この記録、AIに書かせてもいいのかな」。そう思って、手が止まったことがある方は少なくないと思います。 書類にかかる時間は減らしたい。けれど、支援の中身まで機械に渡してしまう気がして、途中でやめてしまう。
これまでこのコラムでは、どの書類から手をつけるかと、 何を入力してはいけないかを扱ってきました。 ただ、現場の方が本当に迷っているのは、その2つのどちらでもないことがあります。 迷いの中心にあるのは、この仕事を渡してしまっていいのかという感覚のほうなんです。
この記事では、線を工程ではなく仕事の性質のほうに引き直します。
Quick answer
線は「事実を揃える/言葉にする/意味づけて決める」の3層に引きます。
AIに任せられるかどうかは、書類の種類ではなく、その仕事がどの層にあるかで決まります。
- 事実を揃える(日付・回数・その日あったこと)は渡せます。
- 言葉にする(下書き・言い換え・体裁の統一)も渡せます。
- 意味づけて決める(解釈・目標設定・次の関わり)は人に残ります。
- 迷ったときは、間違えたときに誰が引き受けるかで見分けがつきます。
同じ支援記録という一枚の中に、3つの層が混ざっています。だから書類まるごとで可否を決めると行き止まるんです。
「どの書類から」で始めると、途中で止まってしまいますよね
書類の種類で線を引くやり方は、始めやすいものです。「連絡帳はAIでいい、個別支援計画はだめ」なら、その場ですぐ共有できます。 けれど運用が進むと、たいてい同じところで止まります。モニタリング記録はどちらなのか。 保護者面談のあとのメモは。ヒヤリハットは。 判断できない書類が増えて、結局「気をつけて使う」に戻ってしまう。
止まる理由ははっきりしていて、一枚の書類の中に、渡していい仕事と渡してはいけない仕事が同居しているからです。 支援記録を思い浮かべるとわかりやすいと思います。「午後の集団活動で、順番を待つ場面が3回あった」は事実です。 「待てたのは、前回より場の見通しが立っていたからだと考えられる」は解釈です。 同じ一枚の、続いた2行なのに、性質がまるで違います。
療育の仕事は、3つの層でできています
現場の仕事を、書類名ではなく性質で並べ直すと、だいたい次の3層に収まります。
1. 事実を揃える層
起きたことを、起きたとおりに集める仕事です。出欠、体調、活動内容、送迎の時刻、その日の場面のメモ。 ここには判断が入りません。入っていたら、それは事実ではなく解釈になっています。
2. 言葉にする層
揃った事実を、読む人に合わせて整える仕事です。連絡帳の文面、報告書の体裁、専門用語の言い換え、書式の統一。 内容を変えずに、伝わり方だけを変える工程です。AIがいちばん力を発揮するのはここなんです。
3. 意味づけて決める層
その事実が何を意味するのかを受け取り、次にどう関わるかを決める仕事です。 アセスメントの解釈、目標の設定、支援方針の変更、家庭への伝え方の判断。 ここは、その子を見ていた人にしか持てない情報の上に成り立っています。
「任せる/任せない」は道具の性能の話に見えて、実際には責任がどこに残るかの話です。 1と2は、間違えても見ればわかりますし、直せます。3は、気づくまでに時間がかかり、その間に子どもの一年が進んでしまいます。
一日の仕事を、3つの層に並べ替えてみます
放課後等デイサービスや児童発達支援の一日を思い浮かべながら、実際の仕事を振り分けてみます。 呼び方は事業所によって違うので、名前は手元のものに置き換えて読んでいただけたらと思います。
渡せる:事実を揃える層
- 出欠・体調・与薬の記録の転記と集計
- 活動プログラムの実施内容の一覧化
- 送迎の時刻や経路の記録の整理
- 複数職員のメモを、時系列に並べ直す
渡せる:言葉にする層
- 連絡帳の下書き(事実を渡して、文面だけを作ってもらう)
- 支援記録の「事実」欄の整文
- 行政提出書類の様式に合わせた体裁と表記の統一
- 専門用語を、保護者に伝わる言い方へ置き換える
- 記載の抜けや、様式との不一致を点検する
人に残る:意味づけて決める層
- アセスメントの解釈(その行動が何を示しているのか)
- 個別支援計画の目標設定と、支援方針の決定
- 支援記録の「解釈・次の支援」欄
- モニタリングでの、達成度の評価と見直しの判断
- ヒヤリハットの原因分析と、再発防止策の決定
- 保護者へ何をどこまで、どの順番で伝えるかの判断
並べてみると、書類の名前ではまとまらないことが見えてきます。 支援記録は層をまたぎますし、連絡帳も「事実を書く部分」と「今日の様子をどう受け取ったかを伝える部分」で扱いが変わります。 支援記録を、事実・解釈・次の支援に分けるという進め方が現場で機能するのは、 この分け方がそのまま、AIに渡せる境目になっているからなんです。
任せてはいけない側には、3つの共通点があります
振り分けに迷う仕事が出てきたときは、次の3つのどれかに当てはまるかを見ると、だいたい決まります。
- その子を見ていないと書けない。記録に残っていない表情や間合いが根拠になっている仕事です。AIは、記録に書かれたことしか知りません。
- 間違えると、支援の方向が変わる。目標や方針は次の半年の関わり方を決めます。文面の誤りは直せますが、方向の誤りは時間を戻せません。
- 「なぜそう判断したか」を説明する場面がある。理由を話す必要がある仕事は、判断した人が持っていないと説明が成り立ちません。
逆に言えば、この3つに当てはまらない仕事は、思っているよりずっと多く渡せます。 現場で危ないと感じられている範囲は、実際より広くなっていることがあります。
5領域と支援プログラムは、AIが書きやすい場所です
制度の側にも、ひとつだけ触れておきます。令和6年7月に改訂された放課後等デイサービスガイドラインでは、 健康・生活/運動・感覚/認知・行動/言語・コミュニケーション/人間関係・社会性の5領域の視点を含めた、 総合的な支援の提供が求められています。あわせて、5領域とのつながりを示した支援プログラムの作成と公表が求められました。
ここは、生成AIがとても書きやすい場所です。枠も項目も決まっているので、依頼すればそれらしい文章がすぐ返ってきます。 だからこそ、いちばん注意が要る場所でもあります。
支援プログラムは、事業所の外に出る文書です。公表した瞬間、それは「うちはこうしています」という約束になります。 実際の活動と公表した文章がずれていると、困るのは書いた人ではなく、それを読んで通うことを決めたご家庭のほうです。 下書きや構成の整理までは任せられますが、実際に何をしているかとの突き合わせは、渡せません。
支援プログラムを作成・公表していない場合は減算の対象となり、令和7年4月1日から所定単位数の100分の85で算定される扱いが示されています。届出の様式や期限の案内は自治体ごとに異なりますので、最新の要件は所管の窓口とこども家庭庁の公表資料でご確認ください。
現場で線を引くときの、4つの手順
考え方が決まっても、明日から動かすには形が要りますよね。事業所で実際に線を引くときの順番を置いておきます。
- 一週間、発生した仕事を書き出す。理想の業務ではなく、実際に手を動かした仕事を並べます。想像で埋めると、あとの振り分けが現場と合わなくなります。
- 3つの層に振り分ける。書類名ではなく、仕事の単位で分けます。ひとつの書類が2つの層にまたがったら、2行に分けて構いません。
- 渡す側だけ、入力してよい情報と確認する人を決める。人に残す側は、いまのやり方を変えなくて大丈夫です。
- 3か月後に、振り分けを見直す。渡せると思っていたのに戻した仕事、逆に渡してよかった仕事が必ず出てきます。そこが、その事業所の本当の線です。
揃えるのは、人の意識ではなく置き場所です
「職員によって使い方がばらばらで」という相談を、よくいただきます。 このとき、研修で意識を揃える方向に進むと、たいてい長続きしません。 意識は、忙しい日にいちばん先に薄くなるものだからです。
振り分け表が1枚あれば、職員は毎回考えずに済みます。考えなくていい状態になっていることが、続く条件なんです。 私たちが人を変えず、環境を変えると言っているのは、こういう場面のことです。
そしてこの線引きは、外の誰かに決めてもらうものではありません。 3か月後の見直しまで自分たちの手でやれるようになれば、次に新しい道具が出てきたときも、同じやり方で判断できます。 渡す仕事が増えても、決める仕事は減らない。その形にしておけるかどうかが、この先ずっと効いてきます。
振り分け表の1枚目から、一緒に作れます。
どの仕事をどの層に置くかは、事業所の体制や職員数によって変わります。
AI業務効率化支援では、一週間の仕事の洗い出しから、
振り分け、入力してよい情報の一覧、確認する人の決め方まで、現場に残る形で一緒に整えています。
療育の仕事は、そのほとんどが人にしかできない、と語られてきました。 3つの層へ分けてみると、少し違う姿が見えてきます。人にしかできない仕事は確かにあって、けれどそれは全体の一部で、 その一部に時間を戻すために、残りを渡すという順番になっているんです。 子どもを見ている時間が少しでも増えるなら、それがこの線引きの目的だと考えています。
よくある質問
- 療育の支援記録をAIに書かせてもよいのでしょうか?
- 支援記録は一枚の中で仕事の性質が変わるため、書類まるごとで可否を決めないほうが判断しやすくなります。その日に起きた事実を整える部分、読みやすい日本語に直す部分は、AIに下書きを任せられます。一方で、その様子をどう受け取ったかという解釈と、次にどう関わるかという判断は、その子を見ていた人にしか書けません。実務では、記録の様式を「事実」と「解釈・次の支援」に分けたうえで、前半だけをAIの守備範囲にする形が扱いやすくなります。出てきた文章は、必ず元のメモと照らして人が確認します。
- 個別支援計画の目標を、AIに考えてもらってもよいですか?
- 目標設定そのものは、人に残る仕事にあたります。個別支援計画は児童発達支援管理責任者が作成し、少なくとも6か月に1回以上のモニタリングで見直すことが求められている、事業所の判断そのものだからです。AIが目標らしい文章を作ること自体はできますが、それはアセスメントの解釈を飛ばして一般的な文例を当てはめた結果になりがちです。任せられるのは、既に決まった目標を保護者に伝わる言葉へ言い換える工程や、記載の抜けを点検する工程のほうです。
- 5領域の支援プログラムを、AIで作成してもよいですか?
- 支援プログラムは、令和6年7月改訂の放課後等デイサービスガイドラインなどで、健康・生活/運動・感覚/認知・行動/言語・コミュニケーション/人間関係・社会性の5領域を含む形での作成と公表が求められている文書です。公表を伴う文書のため、AIの下書きをそのまま出すのは向いていません。下書きや構成の整理、表現の統一までは任せられますが、自分たちの事業所が実際に何をしているかとの突き合わせは人が行います。公表していない場合は減算の対象となり、令和7年4月1日から所定単位数の100分の85で算定される扱いが示されています。要件と様式は自治体で案内が異なるため、所管の窓口とこども家庭庁の公表資料でご確認ください。
- 職員によってAIの使い方がばらばらです。どう揃えればよいですか?
- 使う人の意識を揃えようとすると続きにくいので、判断が要らない状態を先に作るほうが早く落ち着きます。具体的には、一週間に実際に発生した仕事を書き出し、事実を揃える・言葉にする・意味づけて決めるの3層に振り分け、渡す側の仕事についてだけ、入力してよい情報と確認する人を決めます。振り分け表が1枚あれば、職員は毎回考えずに済みます。3か月ほど運用してから、実際の使われ方に合わせて振り分けを見直すと、現場の実態に寄っていきます。
参照した一次情報
- こども家庭庁「放課後等デイサービスガイドライン」(令和6年7月)
- こども家庭庁「児童発達支援ガイドライン」
- こども家庭庁「児童発達支援・放課後等デイサービス・居宅訪問型児童発達支援における支援プログラムの作成・公表の手引き」(令和6年7月4日通知)
- こども家庭庁「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について」
- 児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成24年厚生労働省令第15号)個別支援計画の作成・モニタリングに関する規定
この記事は2026年8月11日時点の公開情報にもとづく整理です。制度の要件を保証するものではなく、個別の可否を判断するものでもありません。減算の要件や届出の様式は自治体によって案内が異なります。最新の内容は各公式サイトでご確認のうえ、事業所の規程や所管の窓口、専門家の確認とあわせてご利用ください。