やわらかな等高線の上に、1枚の計画書と、連絡網・備蓄・代替手段を示す4つの印が並ぶ抽象イラスト

Column / 福祉事業所の運営

福祉事業所のBCP(業務継続計画)
未策定減算に間に合わせるのではなく、現場で使える1枚にする作り方

公開日: 2026-09-05 テーマ: BCP / 業務継続計画 / 未策定減算 / 障害福祉サービス 読了: 約8分

厚生労働省のひな形をダウンロードして、事業所名だけ入れたまま止まっている。 そういうBCP(業務継続計画)は、たぶん多くの事業所の共有フォルダに眠っていると思います。 作らなければいけないのは分かっている。けれど、何十ページもの様式を前にすると、日々の支援の合間に手が伸びない。

この記事では、未策定減算の要件を先に確認したうえで、ひな形のままでは現場で使えない理由と、 自事業所の送迎・利用者・職員の実態を入れて「使える1枚」にする手順、年1回の研修・訓練の記録の残し方、 AIに渡せる工程と人が持ち続ける工程を整理します。

Quick answer

減算を避ける要件は、「策定」「研修」「訓練」「見直し」が記録として残っていることです。ひな形の完成度ではありません。

  • 障害福祉サービス事業所は、感染症自然災害の2本のBCPを策定し、職員への研修と訓練を定期的に行い、必要に応じて見直すことが運営基準で求められています。
  • 令和6年度の報酬改定で、未策定の場合の減算が設けられました。減算率と適用時期はサービスの種類で異なるため、所管の窓口と厚生労働省の公表資料でご確認ください。
  • ひな形が使えないのは、自事業所の送迎経路・利用者の特性・職員の出勤可否が入っていないからです。
  • 使える1枚は、利用者ごとの優先度、連絡網、代替手段、備蓄、職員の想定の5つで作れます。

ひな形は「書く場所」を教えてくれても、「うちの場合」は教えてくれませんよね

厚生労働省のガイドラインとひな形は、よくできています。感染症と自然災害のそれぞれについて、平時の備え、発生時の対応、他施設との連携まで、必要な項目が揃っています。 それでも現場で止まるのは、ひな形が「一般的な事業所」を前提に書かれているからです。

実際に災害が起きたとき、最初に困るのは項目の抜けではなく、 「今日来ている利用者のうち、誰を先に家族へ引き渡すか」「送迎車が使えないとき、誰がどの経路で帰るか」「職員の半分が出勤できないとき、開所するか閉所するか」という具体的な判断です。 ここが書かれていない計画は、当日には開かれません。

「使える1枚」は、5つの欄でできています

ひな形は本体として残したまま、その先頭に自事業所の実態だけを書いた1枚を置きます。書くのは次の5つです。

書くこと元になる情報
利用者ごとの優先度医療的ケア、服薬、移動の介助、単独帰宅の可否、家族の引き取り可否個別支援計画のアセスメント、緊急連絡先
連絡網職員・利用者家族・関係機関の連絡順と、電話が使えないときの代替(SMS、連絡アプリ)職員名簿、契約時の緊急連絡先
代替手段送迎車が使えないときの経路、事業所が使えないときの避難先、通所できないときの安否確認の方法送迎記録、自治体のハザードマップ
備蓄飲料水・食料・常備薬・衛生用品の量と置き場所、点検日利用定員、職員数
職員の想定出勤できる職員が半分・3分の1のときの開所判断と役割勤務形態一覧表、通勤経路

この1枚があれば、当日はこれだけを見れば動けます。ひな形本体は、運営指導で「策定している」ことを示す書類として、その後ろに綴じておきます。

BCPの先頭に置く1枚を、利用者ごとの優先度・連絡網・代替手段・備蓄・職員の想定の5つの欄で構成し、それぞれの元になる情報を添えた図解
ひな形本体の前に、この1枚を置きます。当日に開くのはここだけです。

減算の要件は、計画の中身より「4つの記録」で見られます

未策定減算は、計画が「ある」かどうかだけで判断されるものではありません。運営基準が求めているのは、策定に加えて、職員への研修、訓練(シミュレーション)、そして必要に応じた見直しです。 運営指導でも、これらがいつ・誰が・何をしたかの記録として残っているかが確認されます。

  1. 策定の記録。策定日、策定した人、感染症と自然災害の2本があること。
  2. 研修の記録。実施日、参加者、内容。新任職員には入職時に行ったことが分かる記録。
  3. 訓練の記録。実施日、想定した場面(停電、断水、職員の出勤不能など)、気づいた点。
  4. 見直しの記録。訓練で気づいた点をどう計画に反映したか。年1回以上の見直しが目安です。

研修・訓練の頻度、減算の率と適用開始時期は、サービスの種類(通所系・訪問系・居住系・施設系)で異なります。令和6年度報酬改定の公表資料では経過措置の扱いも示されているため、自事業所の種別についての最新の要件は、所管の窓口と厚生労働省の資料でご確認ください。この記事では数値を断定しません。

この4つの記録は、運営指導で見られる記録のうち「運営の体制」に含まれます。委員会や虐待防止研修の記録と同じ置き場所に揃えておくと、探さずに済みます。

訓練は、30分の机上シミュレーションで足ります

訓練と聞くと避難訓練を思い浮かべますが、BCPの訓練は「その場面で誰が何をするか」を声に出して確かめるものです。 職員会議の30分を使って、次のように進めます。

  1. 場面を1つ決める。「午後2時に停電、送迎車は動かない、職員は今日の出勤者のみ」。
  2. 1枚目の5つの欄を見ながら、誰が何をするかを順番に言う。
  3. 言えなかったこと、迷ったことを、そのまま「気づいた点」として記録する。
  4. 気づいた点を1枚目に反映して、見直し日を書く。

これで、訓練・見直しの記録が同時に残ります。年に1回、場面を変えて繰り返せば、計画は現場に近づいていきます。

AIに渡せるのは「文章にする」、残るのは「順位を決める」と「説明する」

  • ひな形の各項目を、自事業所の実態(送迎経路、利用者数、職員数)に合わせた文章に直す
  • 訓練の記録メモを、様式に沿った記録文に整える
  • 見直しの前後で、計画のどこが変わったかの差分一覧を作る
  • 新任職員向けに、1枚目の内容を研修資料の形に整える

一方で、利用者ごとの優先度の判断、開所・閉所の判断基準、利用者やご家族への説明は人に残ります。 利用者の医療情報や連絡先はAIに入力せず、記録IDと条件(服薬あり・単独帰宅不可など)だけを渡します。 線引きの考え方は福祉現場でAIを使うときの個人情報とリスクに書いています。

今週から始めるなら、この順番です

  1. ひな形の先頭に、5つの欄の1枚を追加する。白紙でも構いません。
  2. 利用者ごとの優先度の欄だけ、今週中に埋める。アセスメントと緊急連絡先を見れば書けます。
  3. 次の職員会議で、30分の机上訓練を1回やる。記録の様式は、日付・場面・参加者・気づいた点の4行で足ります。
  4. 策定・研修・訓練・見直しの4つの記録を、委員会記録と同じ置き場所に置く。
  5. 年1回の見直し日を、来年の予定表に入れる。

ひな形を「うちの1枚」に直す作業から、記録の置き場所まで一緒に整えられます。
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BCPは、減算を避けるための書類ではなく、いちばん困る日に、いちばん忙しい人が開く1枚です。 ひな形を完成させるより、自事業所の実態が入った1枚を先に作る。その順番なら、今週から始められます。

よくある質問

BCPの未策定減算は、どの事業所が対象ですか?
障害福祉サービス等の事業所は、令和3年度の運営基準改正で感染症と自然災害のBCPの策定、研修、訓練が義務づけられ、経過措置を経て令和6年度の報酬改定で未策定の場合の減算が設けられました。対象となるサービスの範囲、減算の率、適用開始時期は通所系・訪問系・居住系・施設系で異なり、経過措置の扱いも公表資料に示されています。自事業所の種別についての最新の要件は、所管の窓口と厚生労働省の公表資料でご確認ください。
厚生労働省のひな形をそのまま使えば、減算は避けられますか?
策定の記録としては成立しますが、運営基準が求めているのは策定だけではなく、職員への研修、訓練、必要に応じた見直しです。運営指導では、それらがいつ・誰が・何をしたかの記録として残っているかが確認されます。また、ひな形は一般的な事業所を前提にしているため、自事業所の送迎経路・利用者の特性・職員の出勤可否が入っていないと、実際の災害時に開かれません。ひな形は本体として残し、先頭に自事業所の実態を書いた1枚を置く形が実務的です。
BCPの訓練は、どのくらいの規模で行えばよいですか?
避難訓練のような大がかりなものでなくても、職員会議の30分を使った机上シミュレーションで足ります。停電や送迎車の使用不能、職員の半数が出勤できないといった場面を1つ決め、計画の1枚目を見ながら誰が何をするかを順番に確かめ、言えなかったことや迷ったことを気づいた点として記録し、計画に反映して見直し日を書きます。これで訓練と見直しの記録が同時に残ります。頻度の目安はサービスの種類で異なるため、運営基準でご確認ください。
BCPの作成にAIを使ってもよいですか?
ひな形の各項目を自事業所の実態に合わせた文章に直す、訓練の記録メモを様式に沿った記録文に整える、見直し前後の差分一覧を作る、新任職員向けの研修資料の形に整える、といった工程には使えます。一方で、利用者ごとの優先度の判断、開所・閉所の判断基準、利用者やご家族への説明は人が行います。利用者の医療情報や連絡先はAIに入力せず、記録IDと条件だけを渡し、出力は下書きとして職員が確認してから正式な計画にします。

参照した一次情報

  • 厚生労働省「障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」
  • 厚生労働省「障害福祉サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」
  • 厚生労働省「障害福祉サービス事業所等における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」資料・ひな形
  • 厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」(業務継続計画未策定の場合の減算)
  • 指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)業務継続計画の策定等に関する規定

この記事は2026年9月時点の公開情報にもとづく整理です。BCPの策定・研修・訓練の頻度、未策定減算の率と適用開始時期はサービスの種類と改定によって異なり、制度の要件を保証するものではありません。最新の内容は厚生労働省の公式資料と所管の窓口でご確認のうえ、事業所の規程や専門家の確認とあわせてご利用ください。